大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和58年(ラ)326号 決定

抗告人 川畑寿美男 外四名

相手方 京都ステーシヨンセンター株式会社

主文

原決定を取消す。

京都地方裁判所昭和五八年(ワ)第一〇七四号否認権行使事件について抗告人らの補助参加の申立は、これを許可する。

本件手続費用は相手方の負担とする。

事実及び理由

一  抗告の趣旨及び理由

抗告人らは、主文同旨の裁判を求め、その理由は、別紙抗告の理由記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

破産管財人が否認権を行使し、これに基づき提起した訴訟は、破産宣告前においては、その大部分につき(破産)債権者が自ら詐害行為取消訴訟として提起し得たものである。破産法第七六条は、否認権の管理処分を専ら破産管財人に委ね、破産管財人に否認権行使訴訟の当事者適格を認めたものであるが、破産管財人の法的性格を如何ように解しても、否認権の行使は、その実質において破産管財人が破産債権者に代つて、その利益のためになしているものと解するのが相当である。そうだとすれば、破産債権者は、破産宣告後は否認権に基づく訴訟を提起することは許されないけれども、破産管財人の提起した否認権の訴訟については、当然「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」として補助参加をなしうるものと解すべきである。けだし、破産債権者としては、右訴訟において、いわば本来自己の権利を破産管財人により代位行使されているに等しく、従つて訴訟の結果につき法律上の利害関係を有し、単に配当割合の増減という事実上、経済上の利害関係にとゞまるものではないからである(補助参加は、訴訟当事者の馴合訴訟防止のためになされるものではなく、またその機能を有するものでもない。)

なお、一件記録によれば、抗告人らの破産財団に対する届出債権は、いずれも破産管財人により否認され、いまだ財団に対する確定債権を有しないことが認められるけれども、当該破産債権の不成立もしくは不存在が確定したわけではないから、これをもつて、抗告人らの破産債権につき疎明がないものということは、補助参加の制度の趣旨よりしても相当でないといわねばならない。

以上の次第であるから、抗告人らの補助参加の申立は、いずれも理由があるから、これを許可すべきである。

よつて、右と判断を異にする原決定は不当であつて、本件抗告はいずれも理由があるから、原決定を取消し、抗告人らの申出を許可し、本件手続費用は相手方にこれを負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林定人 坂上弘 山本博文)

(別紙)

抗告の理由

一 原決定は、抗告人らが、本件につき法律上の利害関係を有しないことを理由に、抗告人らの原告を補助するための補助参加の申立を却下した。

二 しかしながら、右決定は、判例・通説に反するものであり、特殊な見解に基づくものに過ぎない。

三 破産債権者の補助参加について直接論じている判例・学説は勿論、直接論じていない判例・学説も趣旨としては補助参加を認めている。すなわち、判例・通説は、破産管財人の提起した否認訴訟につき、破産債権者は法律上の利害関係を有するとして、補助参加を認めている。

この点は、抗告人らの昭和五八年九月一四日付異議申立に対する答弁書及び同年九月一六日付準備書面で詳論した通りである。

四 抗告人らが受ける可能性のある配当額の多寡に影響があるということが、事実上・経済上の利害関係に過ぎないか、それとも法律上の利害関係となるのかについて、通説は、法律上の利害関係であるとしており、名古屋高決昭和四五年二月一三日(高民集二三巻一号一四頁)も、法律上の利害関係を明確に認めている。

五 原決定は、破産債権が未確定であることも理由にしているが、未確定債権でも将来確定する可能性はあり、いつ、どの時点で確定させるかは破産債権者が破産手続の進行状況を見ながら独自に判断する事柄である。抗告人らは、現時点では、破産財団がほとんどなく、この状態で配当手続に至つた場合、破産債権者は全くもしくはほとんど配当を受けることができないのであるから、あえて確定させても、全くメリツトはなく徒労に終つてしまうことが明白なので、確定させる手続を見合せているに過ぎない。

六 原決定は、本件と債権者代位や取消訴訟とは異なることも理由にしている。

しかし、否認権訴訟は、正に債権者取消権と同一趣旨のもとに認められたもので、債務者の破産という状況に適合させるために債務者の財産減少行為を防止する必要性から債権者取消権を拡大強化しているのである。従つて、債権者取消権よりは、一層、法律上の利害関係は強いと言わなければならない。

ところで、原決定は、破産管財人が裁判所の監督のもとにあることを相異点の一つに挙げているが、この点は、法律上の利害関係の有無とは全く無関係な事柄である。法律上の利害関係とは、当該訴訟の結果、第三者の法律上の地位に影響があるかどうかの問題であつて、この点は、裁判所の監督の有無によつて左右されるものではない。なお言うまでもなく裁判所の監督は、管財人の職務執行の適法性の有無にのみ及ぶのであつて、管財人は、適法の範囲内であれば、独自の権限に基づき自由な裁量をもつて職務をなしうるものである。(注解破産法七七二頁)。否認権行使について言えば、否認権訴訟を提起するか否かは、監査委員の同意(又は裁判所の許可ないし債権者集会の決議)を要するが、(破産法一九七条、一九八条)、一旦提起した否認権訴訟をいかにして追行するかは、和解する場合を除いては、全く管財人の自由裁量に任されているのである。すなわち、否認権訴訟を追行のための主張立証活動は全く管財人の独自の判断と権限に基づいて行なわれるのである。破産債権者にとつてみれば、正に右の具体的な主張立証をいかにすべきかに重大な関心を持つものであり、管財人と協力しながら勝訴に導くための訴訟追行活動を行なう必要性は極めて高く、それが自己の債権の満足に対して必然的に影響を及ぼすことから、法律上の利害関係があると言えるのである。

また、原決定は、破産管財人に破産法上の特殊の注意義務が課せられていることを理由にしているが、この点も、法律上の利害関係とは全く無関係な事柄である。なお、管財人の注意義務は、民法上の委任などの規定にある善良な管理者の注意義務と同様に解されている(通説)。すなわち、管財人の注意義務とは、管財人のなすべき、それぞれの職務行為の性質・内容および、管財人のおかれた具体的な状況に応じて、管財人として、ふつうに要求される注意義務である(注解破産法七八三頁)。従つて、右破産法の規定があることを理由に、法律上の利害関係の有無について、債権者取消権の場合と別異に解すべき理由は全くない。

七 以上のように、原決定は、判例・通説に反するものであり、しかも理由が全くないのであるから、抗告人らは本件即時抗告に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例